森とともに生きる、100年先を考える
森とともに生きる、100年先を考える
南会津アウトドアプロジェクトに参加して
2026年8月27日、28日の2日間、福島県南会津町で行われた「南会津アウトドアプロジェクト」に参加してきました。
今回声をかけてくれたのは、POW(Protect Our Winters)の島本聖史さん。
「スキー場や地域のこれからの繁栄を考える中で、森とともに生きていくことを軸に地域を再生していきたい。バイオマス発電や地域の地産地消の循環経済、その中で漆や木地のことも考えたい」
そんな話を聞いて、漆屋として何か一緒に考えられることがあるのではないかと思い、南会津へ向かいました。
今回集まったのは、POW、Patagonia、アウトドアに関わる人たち、研究者、編集者、そして南会津で活動する地域の皆さん。
普段はそれぞれ違う場所で、違う仕事をしている人たちが、同じ山を歩きながら、
「この地域の100年先をどうつくっていくのか」
を一緒に考える2日間でした。
夏のスキー場を歩く
初日は、だいくらスキー場とたかつえスキー場へ。
冬なら一面の雪に覆われているゲレンデを、今回は植物の専門家である福島大学の黒沢先生に案内していただきながら歩きました。
そこで教えてもらったのが、スキー場を「草地」として見る視点です。
【写真:夏のスキー場を歩いているところ】
これまでスキー場といえば、僕にとっては雪の上で遊ぶ場所でした。
ところが雪がなくなると、そこには草が生え、花が咲き、昆虫がいて、さまざまな生き物の居場所になっています。
人間が木を伐り、草を刈り、冬にはスキー場として使う。
一見すると「自然を改変した場所」ですが、人が関わり続けたことによって維持される環境があり、そこに独自の生態系が生まれることもある。
「自然を守る」とは、ただ人が自然から離れることではないのかもしれない。
人が自然とどう関わり続けるのか。
夏のスキー場を歩きながら、そんなことを考えました。
人が関わり続けることで残ってきた草原
翌日は、南会津町藤生地区の鋏山(はさみやま)へ向かいました。
【写真:鋏山の草原】
ここには、スキー場とはまた違う、長い歴史を持つ草原が広がっています。
鋏山は「未来に残したい草原の里100選」に選ばれている約90ヘクタールの草原です。昔から茅場や採草地、放牧などに利用され、現在も地域の人たちによる山焼きによって維持されています。山焼きは300年以上受け継がれているとされ、南会津町の重要無形民俗文化財にも指定されています。(南会津町公式サイト)
そこにはカリヤスやススキをはじめ、さまざまな植物が生育しています。(南会津町公式サイト)
前日に見たスキー場の草地と、この歴史ある草地を実際に歩いて比較しました。
ここで面白いと思ったのは、この風景が「人が何もしなかったから残った自然」ではないということです。
茅を刈る。
山を焼く。
山菜を採る。
人が山から恵みをいただき、そのために手を入れ続けてきた結果、この草原と生態系が残ってきた。
「使うこと」と「守ること」がつながっている。
これは僕たちが漆を通して考えてきたことと、とてもよく似ています。
『奥会津の木地師』から考えたこと
夜には、記録映画『奥会津の木地師』をみんなで観ました。
木地師は、山の木を使って椀や盆などの木地をつくる職人です。
山に入り、木を見て、その土地にある素材を使って暮らしの道具をつくる。
僕たち漆屋にとっても、木地は切り離すことのできない存在です。
漆器は漆だけではつくれません。
木を育てる人がいて、木を伐る人がいて、木地を挽く人がいて、漆を採る人がいて、精製する人がいて、塗る人がいる。
そのすべてがつながって、ようやく一つの器になります。
南会津の森を歩いたあとに木地師の文化を見ると、昔の人たちが森を単なる「資源」としてではなく、暮らしそのものとして使ってきたことを改めて感じました。
【奥会津の木地師 奥会津博物館にて】
森を「使う」ことで、森を守る
僕たち堤淺吉漆店も、これまで漆を通して同じようなことを考えてきました。
ウルシの木を植える。
育てる。
樹液をいただく。
ものをつくる。
使う。
直す。
そして次の世代へ渡す。
自然から何も取らないことだけが、自然を守ることではない。
自然から恵みをいただくからこそ、その木をまた植え、その森を手入れし、技術を次の世代へ残そうとする。
人と自然との間に関係があるから、守ろうと思える。
鋏山の草原も、木地師の文化も、漆も、根っこの部分ではつながっているように感じました。
スキー場を残すことだけが目的ではない
今回の南会津では、気候変動による少雪だけでなく、人口減少、地域経済、観光、エネルギーなど、さまざまな問題について話しました。
スキー場をどう維持するのか。
冬だけではなく、マウンテンバイクやトレイルランニング、登山などを含めて、山を一年を通して楽しめる場所にできないか。
地域の森林資源をエネルギーとして使うことはできないか。
水の豊かな地域だからこそ、小水力発電の可能性はないか。
そして、地域にある資源を地域で使い、そこで生まれた価値やお金を、もう一度地域の中へ戻すことはできないか。
一つひとつを見ると、スキー場、エネルギー、林業、観光、工芸は別々の話に見えます。
でも、本当は全部つながっています。
だから「どうすればスキー場を残せるか」だけではなく、
「たとえ環境や社会が変わっても、この地域に何を残していくのか」
を考える必要があるのだと思います。
地域にあるものを、もう一度つなぎ直す
南会津には森があります。
水があります。
草地があります。
木を使ってきた文化があります。
雪があり、山で遊ぶ文化があります。
そして、そこで暮らしてきた人たちの知恵があります。
新しいものを外から持ってくる前に、すでにこの土地にあるものを見直して、それぞれをもう一度つなぐことができないだろうか。
森の木を地域のエネルギーにする。
地域の木から木地をつくる。
ウルシを植え、漆を採り、地域の木に塗る。
山で遊ぶ人が森について知る。
都市の人や企業、学校が継続的に地域と関わる。
それぞれがつながれば、森を中心にした新しい循環が生まれる可能性があります。
これは、僕たちが京都で漆を通して取り組んできたこととも重なります。
100年先も、この山とともに
最終日は、地域の皆さんも交えて「第0回 南会津アウトドアミーティング」も行われました。
POW、Patagonia、研究者、編集者、アウトドアを楽しむ人、地域で暮らす人、そして漆屋。
立場も専門も違います。
だからこそ、同じ場所を一緒に歩いて、同じ景色を見て、それぞれの立場から話すことに意味があるのだと思います。
今回の南会津で強く感じたのは、
地域の問題を、一つの問題だけで解決しようとしないこと。
自然、文化、産業、エネルギー、観光、遊び、そして暮らし。
それらをもう一度つなぎ直していく。
そして自然を「守る人」と「使う人」に分けるのではなく、自然から恵みをいただきながら、その環境を次の世代へ渡していく方法をみんなで考える。
それは、漆という素材と向き合いながら、僕たちがずっと考えてきたことでもあります。
「スキー場を残すにはどうしたらいいか」から始まった話は、南会津の山を歩くうちに、もっと大きな問いになりました。
100年後も、人がこの山と関わり、遊び、恵みをいただき、暮らしていくために、今、何をつないでおくべきなのか。
僕たち漆屋にできることは、まだ分かりません。
でも、初めて訪れた南会津で、この問題に本気で向き合っている人たちに出会えたこと。そして、その人たちと漆や木地、森の未来について一緒に考えられたことが、とても嬉しかったです。
さらに嬉しかったのは、南会津で出会った若い人たちと、僕がこれまで漆を通して出会ってきた会津の人たちが、すでにつながっていたこと。
地域も世代も仕事も違う人たちが、森や文化を通して少しずつつながっていく。
この土地で、漆を通して環境や地域の課題に関わっていけることがあるかもしれない。
今回の出会いを入り口に、南会津の皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
そして100年先にも、この山で誰かが遊び、笑い、森の恵みをいただきながら暮らしている。
そんな未来につながればと思います。