漆を通して、人と地域と次の世代がつながる

第24回「クロメ会」に参加して

2026年9月12日、13日の2日間、茨城県常陸大宮市で開催された、NPO法人 壱木呂の会の「第24回クロメ会」に参加してきました。

クロメ会は、塗り手の皆さんが自分で購入した漆を持ち寄り、自分たちの手でナヤシ、クロメを行う会です。

今年はお声がけいただき、初日は皆さんと一緒にクロメをしながら、僕たち堤淺吉漆店が普段の精製で考えている「ナヤシとクロメ」についてお話しし、2日目には「きれいな地球とともに漆の文化を次世代に」というテーマで講演させていただきました。

クロメだけでなく、漆掻き、ウルシ材を使った草木染め、漆畑や苗畑の見学など、漆をいろいろな角度から知り、体験できる2日間です。

汗をかきながら、漆と向き合う

初日の会場で何より印象的だったのが、皆さんが汗をかきながら手を使って、夢中になってクロメをしている姿でした。

クロメとは、生漆を撹拌しながら水分を調整し、塗料として使える漆へ精製していく工程です。

普段、僕たちは京都の工場でこの仕事をしています。

気温や湿度、その日の漆の状態を見ながら、どこまで水分を飛ばすのか、どういう漆に仕上げるのかを考える。

毎日やっている仕事ですが、今回はいつもとは少し違いました。

普段は漆を「使う側」である塗り手の皆さんが、自分の漆を前にして、温度を測り、混ぜ、色や粘りを見ながら真剣に精製している。

【動画:手グロメをしている様子】

その中で、僕たちが普段考えているクロメのことをお伝えすると、皆さん手を動かしながら、本当に熱心に聞いてくださいました。

「もう少しクロメた方がいいですか?」
「この状態はどうですか?」

一緒に桶の中を覗きながら、いろいろな話をしました。

漆を精製する人と、漆を塗る人。

立場は違っても、目指しているものは同じです。

「いい漆をつくりたい。」

その気持ちが同じなんだと感じられたことが、とてもうれしかったです。

日本各地から、漆を愛する人が集まる

そして今回、とても印象に残ったのが、この場所に日本各地から漆を愛する人たちが集まっていることでした。

漆を塗る人、漆を掻く人、育てる人、研究する人、漆の文化を広げようとする人。

仕事も年齢も、漆との関わり方もそれぞれ違います。

それでも漆を前にすると、みんな楽しそうです。

クロメをして、漆の話をして、漆染めをして、一緒に食事をする。

そこには肩書きや立場を越えて、人と人をつなぐ漆の力があるように感じました。

今回でクロメ会は24回目を迎えたそうです。

壱木呂の会は、国産漆を使うことで漆掻き職人や日本の漆文化を支えようと、長い時間活動を続けてきた会です。

本間幸夫先生をはじめ、長くこの会をつくり、支えてきた方々がいる。

そして今、その活動や思いが少しずつ次の世代へ受け継がれ、若い人たちも一緒になって会を支えている。

その姿を実際に見ることができたことを、とても頼もしく感じました。

文化を継承するというと、技術を残すことを考えます。

でも今回皆さんと過ごして感じたのは、人が集まる「場」を次の世代へ渡していくことも、文化を継承することなのではないかということでした。

先輩たちがつくった場所に次の世代が加わり、そこへまた新しい人がやってくる。

一緒に手を動かし、一緒に楽しみながら、知識や技術だけでなく、漆に対する思いまで人から人へ渡っていく。

そんな場所が長く続いていること自体が、とても大切なことだと思いました。

ウルシの木を植える人たち

2日目には、神長さんたちが育てている漆畑、苗畑を案内していただきました。

【写真:漆畑の風景】

とても印象的だったのが、きれいに整えられたウルシの林です。

どんな木を選ぶのか。
どう植えるのか。
どう育てるのか。

一本一本の木に対して考え、こだわりを持って植樹されていることを、神長さんから丁寧に説明していただきました。

分根の苗畑や優良苗などの説明をして頂き、クロメだけでなく、漆が生まれる一番最初の「木を育てる」というところまで学べる時間になっていました。

そして何より素晴らしいと思ったのが、地元の仲間たちが協力して、新しいウルシの木を植え、育てていることでした。

【写真:植栽されたウルシの木】

この辺りでは鹿などによる獣害が少なく、大きな獣害柵に囲まれていないウルシの木が、周りの田畑や山の風景の中に自然に溶け込んでいました。

丁寧に手入れされたウルシの木。

その周りには農地があり、山があり、人の暮らしがある。

その風景が本当に美しかった。

でも、この風景は自然だけがつくったものではありません。

人が関わることで生まれる、美しい風景

漆を植える人がいる。
育てる人がいる。
漆を掻く人がいる。
精製する人がいる。
塗る人がいる。
漆の文化を広げようとする人がいる。
農業をする人がいる。

いろいろな人がそれぞれの立場で自然と関わり、協力しながら、この地域の風景をつくっている。

今回、そこがとても心に残りました。

自然を守るというと、「人が手をつけないこと」のように考えてしまうことがあります。

でも、人が木を植え、育て、その恵みをいただき、また次の木を植える。

人が自然と関わり続けることで生まれる、美しい風景もあります。

ウルシの林を歩きながら、僕たちが「工藝の森」などで考えてきたこととも重なりました。

植える → 育てる → 採る → つくる → 使う → 直す → 受け継ぐ。

その循環は、ものをつくるためだけのものではなく、地域の風景や暮らしをつくる循環でもあるのだと思います。

樹液だけじゃない。ウルシの木を楽しむ

そして、最高に楽しかったのがウルシ材を使った草木染めです。

【写真:漆染め】

【写真:ウルシの木の実を使った漆コーヒー】

漆というと、どうしても木から採れる樹液に目が向きます。

でも、ウルシの木は樹液を採って終わりではありません。

材として使ったり、染めに使ったり、木そのものにもいろいろな可能性があります。

今回のクロメ会でもウルシ材を使った草木染めが行われていました。

実際にやってみると、これが本当に楽しい。

クロメに夢中になっていた人も、漆畑を見ていた人も、みんな一緒になって染めを楽しんでいる。

漆文化を残すために頑張る、というだけではなく、まず自分たちが漆を楽しんでいる。

この雰囲気がとてもよかった。

文化が次の世代へ続いていくためには、この「楽しい」ということも、実はとても大切なのではないかと思います。

「きれいな地球とともに漆文化を次世代へ」

2日目の午後には、

「きれいな地球とともに漆の文化を次世代に」

というテーマでお話しさせていただきました。

日本では1万年以上前から使われてきた天然素材、漆。

しかし今、漆の使用量は大きく減り、それを支える森や人、技術をどう次の世代へつないでいくのかという課題があります。

講演では、堤淺吉漆店が取り組んでいる活動を紹介しながら、漆を単なる伝統工芸の材料としてではなく、自然と人、そして文化をつなぐものとして考えていることをお話ししました。

でも、ここで皆さんと2日間過ごしてから話していると、特に伝えたいと思ったことがありました。

それが、地域の皆さんがつながって漆文化を育てていることの素晴らしさでした。

漆文化は、一人ではつくれません。

ウルシを植える人だけでも、漆を掻く人だけでも、漆を塗る人だけでも続いていかない。

それぞれの人がつながり、その土地で循環することで初めて、文化として続いていく。

そして、そのつながりの中に地域の風景や暮らしもある。

常陸大宮で実際にその姿を見せてもらったように感じました。

漆を通した、美しい地域

今回の2日間を振り返ってみると、僕が一番心に残っているのは、漆そのものだけではありません。

汗をかきながら手グロメに夢中になっている人たち。

長い時間この会を守ってきた人と、それを受け継ぐ次の世代。

地元の仲間と新しいウルシを植える人たち。

丁寧に手入れされた漆畑。

その周りに広がる田畑や山。

そして、日本各地から集まった人たちが、立場に関係なく一緒になって漆を楽しんでいる姿。

漆を中心に、人と自然、人と人、地域と地域、そして世代と世代がつながっている。

僕が今回見た「美しい地域」というのは、単に景色が美しいということではありませんでした。

そこに暮らす人たちが自然に手を入れ、その恵みをいただき、それを外から来た人とも分かち合いながら、次の世代へ渡している。

そんな人の営みまで含めた風景が、とても美しかった。

漆文化を次世代へつなぐということは、技術や漆器だけを残すことではなく、こうした人と自然との関係や、人が集まる場所まで一緒に残していくことなのかもしれません。

僕たちも京都で、そんな場所をつくっていきたい。

そして、またここに来たい。

そう素直に思えた、最高の2日間でした。

本間健二会長をはじめ、長年この会をつないでこられた皆さま、壱木呂の会の皆さま、神長さんをはじめ地域の皆さま、そして日本各地から集まった漆を愛する皆さま、本当にありがとうございました。

asakitichi tsutsumi