タイ芸術工芸振興協会(SACIT)の皆さまをお迎えして
11月27日、タイ各地の工芸家やデザイナーとの協業を通じ、現代の市場ニーズに即した工芸品制作を支援されている タイ芸術工芸振興協会(SACIT) の皆さまが、堤淺吉漆店が運営する Und. を訪問されました。
今回の訪問は、私たちのWebサイトや取り組みに関心を持ってくださったことがきっかけとなり実現したものです。長い時間をかけて育まれてきたタイの工芸文化と、日本の漆文化を起点に、これからの工芸のあり方について対話できる貴重な機会となりました。
工芸と市場をめぐる率直な意見交換
当日は、タイの工芸家の方々や工芸振興を担う担当官の皆さまと共に、日本におけるマーケット状況、工芸品の消費行動、近年のトレンド、そして国や文化を越えたコラボレーションの可能性について意見交換を行いました。
私たちからは、漆の精製という立場から見た日本の漆の現状や課題、素材としての漆が置かれている環境についてお話しし、タイの工芸と比較しながら、それぞれが直面している共通点や違いについても考えを共有しました。
「伝統を守ること」と「市場とどう向き合うか」という問いは、国は違えど同じように工芸に携わる人々が抱えているテーマであることを、改めて実感しました。
漆を通して伝えたいこと
Und. の空間では、漆を用いたサーフボードやアライア(古代ハワイアンのサーフボード)もご覧いただきました。
それらの造形や美しさそのものにも驚きと感動の声をいただきましたが、私たちにとって印象的だったのは、それらが単なる「意外性のある作品」としてではなく、漆という自然素材を通して、人と自然の関係性を見つめ直す試み の一つとして受け止めていただけたことでした。
漆は、時間をかけて木からいただき、人の手を通して使われ、また次の世代へとつながっていく素材です。私たちは、その循環や背景も含めて伝えていくことが、現代における工芸の役割の一つだと考えています。SACITの皆さまがその点に深く共感してくださったことは、大きな励みとなりました。
文化を越えた対話から、次の一歩へ
今回の訪問を通して、工芸が単なる「モノづくり」ではなく、文化や自然、経済、そして人の価値観をつなぐ存在であることを、改めて強く感じました。
国や素材は違っても、工芸に向き合う姿勢や課題意識には多くの共通点があります。
堤淺吉漆店は、これからも漆の精製という立場から、国内外の工芸に携わる方々との対話を重ねながら、漆文化の可能性を探り続けていきたいと考えています。今回の出会いが、今後の新たな交流や協働へとつながっていくことを心より願っています。