【職人探訪 vol.1】 塗師・高山尚也「新レーキ」顔料について

堤淺吉漆店が取り扱う、漆、材料、道具について毎回一商品に焦点を当て、実際に使用して頂いている職人さんや作家さんに、使い手目線の評価をしてもらう不定期連載企画。私たちの一方的な商品説明だけではなく、使ってみての感想やメリット・デメリットをリアルにレポート。取材に応じて頂いた方の作品や取り組みなども紹介させて頂きます。元地域情報紙の記者で、現在は堤淺吉漆店の営業として全国の職人さん、作家さんを回っている私、森住が昔を思い出しながらちょっと記者ぶってお届けする気まぐれコラムです。

漆工用顔料【新レーキ】其の一

株式会社高山清(広島県)
高山尚也さんに聞く   Facebook instagram

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広島で100年以上続く老舗仏壇店「株式会社高山清」の四代目、高山尚也さん(39)。国の伝統的工芸品にも指定されている「広島仏壇」をはじめ、寺院仏具や寺社修復など、塗師として活躍する期待の若手。しかし、昨今、生活様式や価値観が変わり、漆と金箔を使用した「金仏壇」の需要は減少。さらに化学塗料が主流となり、漆塗りの仏壇は減少の一途をたどっている。広島だけでなく全国の仏壇産地が皆、同様に厳しい状況に立たされている。

そんな中、高山さんは、「漆」にこだわり、伝統の広島仏壇を継承しようと、様々な試行錯誤を繰り返している。最近では、受け継がれる広島仏壇の技術を活かしながら、オリジナルの漆器ブランド「NAOYA TAKAYAMA」を立ち上げ、日常で使える漆器の制作販売も開始した。2019年には、乾漆で制作した酒器「SHIZUKU」が、ひろしまグッドデザイン賞奨励賞を受賞するなど、認知度も高まり、漆器の売れ行きも好調だ。
【参考】https://www.itc.city.hiroshima.jp/gooddesign/archive/16.html

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高山さんの漆器は、広島仏壇の塗りの技術と、京都で技を磨いた蝋色磨きを駆使する。デザインや配色も人気で、仏壇店に漆器を求めに来るお客様が増えたとのこと。お客様は漆器をきっかけにお仏壇も目にする。本業にも良い循環が生まれ始めている。

ところで、高山さんが作り出す色とりどりの漆器。その制作には、当社オリジナルの「新レーキ」顔料が練り合わされた漆が不可欠。そこで、新レーキ顔料の特徴について聞いてみました。

【特徴1】馴染みが良く、刷毛目が残りにくい

カドミウム系顔料が廃盤となり、漆工用顔料は一般にレーキ顔料と呼ばれる有機顔料が主流に。例えばパーマネントカラー黒函や新王冠朱(旧王冠朱はカドミ朱)、竹谷レーキなどが代表的。ちなみに新八宝は今年2月で生産終了。水銀系は生産しています。

これらのレーキ顔料は、金属系の無機顔料(カドミ・水銀)に比べ、比重が軽く、顔料が沈まない為、漆に対して少量の添加で発色するという利点がある一方で、刷毛目が立ちやすいという難点があります。そこでそのデメリットを解消すべく、顔料メーカー協力のもと開発されたのがこの「新レーキ」。

高山さんは、「塗りやすく、塗った後の馴染み・流れがいいです。色むらも出にくく、同じ色を塗り重ねる事で、はっきりした色と深みもでていいと思います」と話します。

 また、高山さんの漆器に良く見られるグラデーションを表現する時にも効果を発揮するといいます。「これまでのレーキ顔料だと、漆に混ぜることで漆の粘度が高くなり、顔料を混ぜていない黒漆とのグラデーションをする時に、うまく馴染まないんです。でも新レーキは漆に混ぜても流れが良いので、グラデがしやすいと思います」。

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気を付けてほしいのは流れが良い分、塗りが薄くなると漆特有のコザレ(小ごみ)が出ることも。もちろん、顔料や漆の特性に合わせた塗り方や工夫、ある程度の慣れは必要ですし、顔料比率や漆そのものの粘度・乾きを調整して頂くのは、言うまでもありません。

 

【特徴2】蝋色時に効果を実感
京都の蝋色師の元で修業していた高山さん。蝋色師目線の貴重なご意見を頂きました。

 「蝋色した時の研ぎは、カドミ朱より研ぎやすく作業性はいいと思います。塗り手にもよるのですが、カドミ朱の場合、研いだ時に硬く感じ、刷毛目が消えにくい印象が多かったです。塗膜が堅い部分と柔らかい部分があり胴摺りがうまくいかない事もありました。でも新レーキの場合は、その心配を感じる事は無いです」。これは従来のレーキ顔料でも同じメリットが言えるように思いますが、『刷毛目が立ちやすい』ので結局、刷毛目の山の部分と谷の部分で微妙に硬化具合が異なる為、蝋色するのに、よりコツが必要といいます。


また「あくまでも個人的な感想ですが、カドミの場合、摺りのカタが残る事が多く、蝋色の仕上がりのいい時と悪い時の差が大きいと感じます。その点、新レーキは大きなブレがないように感じます。私だけかもしれませんが」とも話してくれました。


 補足しておきますが、カドミ朱は顔料が金属系で重く沈む為、刷毛目はむしろ立ちにくいわけです。ここで高山さんが話す刷毛目とは、おそらく蝋色師目線のごくわずかな刷毛目のこと。見た目わからなくても、艶上げした後にわずかに写る刷毛目のあと。これが、新レーキだと出にくいというお話しです。

 

また、カドミが「研いだ時に硬く」という表現がありますが、本来塗膜が硬いのは良いことです。研磨時にカドミの塗膜が硬く感じるのは、顔料が重く塗膜の下の方に沈むことで、極端に言うと二層になっているわけです。ですから、研磨する塗膜の上部には顔料が少なく、硬く感じるとも考えられます。研ぎ汁もあまり赤くならないのです。新レーキを使っても最終的な塗膜硬度はしっかり硬くなりますが、粉が沈まないため、結果的に作業性が良くなるということです。でもとぎ汁は真っ赤です。ちなみに、すべての顔料でこの理屈が通るわけではなく、例えば弁柄は、逆に塗膜がしっかりしまりかなり硬くなる特性もあります。


今回、高山さんにお話しを伺ったのは、新レーキも従来のレーキ顔料も両方使って頂いていることと、蝋色師の観点からも特徴をお聞きしたかったこと。京都の蝋色師さんは、全国的にも珍しい蝋色磨きの専門職。塗りも蝋色もご自身で行う漆芸作家さんが多いとは思いますが、自分が最終的な仕上がりをイメージし、蝋色磨きしやすい下地から塗りを試行錯誤出来るのに対し、蝋色師さんは、個別の塗師屋さんから、異なる下地や塗り、顔料の種類や塗膜の厚み、硬化具合で仕上がってくる多種多様な塗りモノを蝋色しているわけです。ですから、その京都の蝋色師さんの元で修業をされ、現在は塗りも蝋色もされる高山さんの蝋色師目線での新レーキの評価は、非常に興味深かったのです。


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それともうひとつ。仏壇業界が厳しい状況の中、あきらめずに常に前向きな挑戦をされている姿勢に共感したから。実はこれが一番大きかったと思います。私たち漆屋も同じ。漆の需要減少に危機感を感じ様々なチャレンジをしています。素材屋も使い手もお互いが助け合って成長していければいいなと思っています。


最後に誤解の無いように付け加えますが、カドミも従来のレーキ顔料も否定しているわけではありません。カドミに関しましては、これまでご使用いただいていたお客様も多く、むしろ廃盤を惜しんでおります。また、従来のレーキ顔料は当社で変わらず販売しております。カドミウムに比べてどうしても刷毛目が立ちやすいというお客様の多くの問い合わせを受け、新レーキの開発・販売に至りましたが、従来のレーキ顔料にあって新レーキにない色目もたくさんあります。また価格も新レーキは割高となります。従来からのレーキ顔料も新レーキもお客様の選択肢として、大切な漆工用材料です。特徴や予算、お好みに合わせて使い分け頂ければと考えております。


【顔料比率について】

隠ぺい力が保てる最低の顔料比は漆10に対して新レーキ3
これより顔料を減らすと透けやムラの原因になりますのでお勧めできません。
通常、漆10に対して4~5が刷毛馴染みも良く、ある程度発色もします。
顔料比率の上限に決まりはありませんが、後のチョーキングなどのリスクを考えると、
やはり1対1ぐらいまでにしておくのがベター。1対1だと、黄色や白といった明るめの色でも発色します。

【ご注文について】
顔料のみのご注文の場合は、下記オンラインショップよりご注文お願いいたします。

【朱色系】https://www.kourin-urushi.com/?pid=117884835

【その他】https://www.kourin-urushi.com/?pid=117885535

また、漆と練り合わせでご検討されている場合は、漆150g+新レーキ希望量から個別対応させて頂きます。ご注文、ご相談は堤淺吉漆店・森住(もりずみ)まで。

E-mail urushiya@kyourushi-tsutsumi.co.jp

に、お名前(会社・工房名)、電話連絡先をご記入の上、漆の種類と量、新レーキの色と量、をご指示頂きます様お願い申し上げます。尚、確認したいことがある場合は、こちらからお電話またはメールさせて頂きます。

 今後、50g入り色漆(1対1)に新レーキも数色追加していく予定です。準備が出来ましたらWEBサイトやSNSで報告させて頂きます。

 

写真提供/株式会社高山清

 

筆者/株式会社堤淺吉漆店・森住健吾 Facebook instagram 

プロフィール

神奈川県南足柄市出身。私立桐光学園高等学校にサッカーのスポーツ推薦で入学。在学中、インターハイ3位、全国高校サッカー選手権大会準優勝。日本高校選抜選出。その後、専修大学に進学。体育会サッカー部所属。関東大学サッカーリーグ2部新人賞受賞。卒業後は、仕事とサッカーを両立できる京都の佐川印刷株式会社に入社(サッカーで。現在チームは解散)。日本フットボールリーグ(JFL)に所属し、選手として活動しながら、人事部にて採用活動に従事。度重なる大けがで2度の手術を経験。サッカー選手を引退し、退職。地元神奈川に戻り、高校時代に取材を受けた株式会社タウンニュース社に就職。茅ヶ崎編集室・厚木編集室にて記者・副編集長を兼務。入社2年後に結婚。相手は遠距離していた京都の漆屋の娘。2児の父となり、そして今、なぜか漆屋で働いている。入社10年目に突入。いまだ京都に馴染めていない42歳。

asakitichi tsutsumi