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日本産漆を守るために 
今、私たちが出来ること

堤 卓也  堤淺吉漆店  

漆を精製している中で日々思うことがある。これからも今のまま漆を供給し続けることができるのかと…。当たり前のように輸入している中国産漆が入ってこなくなれば一体どうなるのか。

今の日本産漆の生産量ではとてもまかなうことができない。一度化学塗料に代わってしまったら、もう漆の文化が消えてしまうのではないか。大げさに聞こえるかもしれないが、私たちは危惧しています。

中国の漆の産地に視察で訪れた時、「植栽はしないのですか?」と尋ねたことがある。返ってきたのは「何でそんなことする必要があるの?山にはまだまだ木があるし、ここが無くなれば山の高いところに行けばたくさんある」という内容だった。

彼らに危機感は全く無い。しかし現実、標高の低い場所では漆の木は伐採され、賃金の高い漢方薬の畑に代わっているのを目の当たりにした。中国でも漆掻き職人の確保は容易ではなくなっている。経済成長の影響も加わり、人件費は上昇。輸入価格は年々上がっているのが現実。今はまだ日本産漆との価格に開きがあるものの、いずれ変わらなくなるのではないか。そうなる前に、中国産漆に助けてもらいながら、少しずつ日本産漆を増やしていくことができないか。

文化庁は平成30年から国宝などの建造物の修復に、全面的に日本産漆の使用を目指すと発表。日本産漆の需要拡大の糸口は見えた。でも供給が間に合わなければ意味がない。私たちに何ができるのか。日本産漆を増やすにはどうすべきか。大きなことはできないが、まずは漆のことを知ってもらうことが重要だと気付いた。

もう一つ思うこと。

安くて便利なものが溢れ、使い捨ては当たり前の現代。「壊れたら新しい物を買えばいい」「安いから、壊れたら捨てる」。確かに何でも簡単に手に入る世の中だが、本当にそれで良いのでしょうか?次世代を担う子どもたちは、それが当たり前になり「物を大切にする気持ち」や「永く丁寧に使うことによる愛着」、「世代を超えて使い続けることによる思い入れ」などが失われていく。でも漆には逆にそういう心を育む力がある。

私たちはこの冊子と取り組みを「うるしのいっぽ」と名付け、漆の持つ可能性や魅力を伝えたい。そう考えています。

 
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企画・編集 堤淺吉漆店
撮影・編集協力 Terminal81 Film 宮下直樹